気象予報士テンキューラー“数字”と“体感”を考える

今年の夏の天気の印象は、いかがでしたでしょうか。暑かった、いや、涼しかった、いつもの夏と変わらないよ…などなど、おそらく暑さの感じ方は、人それぞれだったと思います。
そこで、気温の「数字」だけでみてみたところ、東京の今年の夏の気温は、平年の夏と比べて1℃ほど高かったです。「8月のお盆のころ、あんなに涼しかったのに?」という方も、いらっしゃると思います。平年ですと1年で一番暑くなるのは8月中旬のお盆のころですから、その時期に涼しかったということは、印象強く残っているかもしれません。実は今年は7月がかなり暑かったため、夏の平均をとると東京では暑かったということになったわけです。このように「数字」と「体感」は必ずしも一致するとは限りません。

さて、季節は進んで9月は秋。9月23日は秋分の日です。秋分の日の東京の最高気温の平年値は25.2℃です。この気温を、みなさまは「暑い」と感じるでしょうか、「涼しい」と感じるでしょうか?最高気温が25℃以上の日を「夏日」と言いますので、数字だけ見ると秋分の日はまだ「暑い」のかなとも思います。でも、夏本番に30℃以上の真夏日をさんざん経験したあとの25℃というのは、もしかすると数字よりも「涼しい」と感じるかもしれません。また、朝晩は20℃を下回るようになってくるので、羽織るものを準備し始めます。

 逆のことが、「春分の日」でも言えそうです。3月21日の春分の日の東京の最高気温の平年値は14.2℃です。この気温を9月に聞くと、寒そうに感じるかもしれません。でも、真冬の間に10℃に届かない寒さをさんざん経験したあとの14℃は、日差しのぬくもりにホッとして、重いコートを脱ぎ始めるのかもしれません。

 人は、気温の「数字」そのものよりも、気温の「変化」を「体感」して、気象と上手にお付き合いしているのだなと思います。

9月には、ファッション雑誌はもう10月号が発売されていることが多いですね。その表紙を飾る装いは秋のファッション。25℃の夏日なのに、9月には長袖のブラウン系の羽織るものが欲しくなってくるのは、気温の「数字」のせいだけではないかもしれません。見聞きするものの「変化」からも、人は季節の移ろいを感じているのでしょう。

季節が変われば、ファッションだけでなく、食べたい物や行きたい場所も変わってくると思います。さらに日々の天気の変化によって、選ぶ服も変え、食べるものも変え、行く場所が変えられなかったら、行き方を変えるなど、人の行動や判断は季節や天気によって制限されたり、逆に選択肢が広がったりします。

無機質に思われがちな数字だらけの気象データを、実際の生活や産業にどう活かしたら皆様の暮らしを豊かにするお手伝いができるのか。TNQLの中からヒントをいただきながら、気象予報士テンキューラーは日々奮闘しています。